九十九島の利用について

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西海国立公園 九十九島の利用方法と、公園内にある無人島「金重島(かなしげじま)」について、環境省に問い合わせをしてみた結果を記しておきたいと思います。

金重島

金重島は、西海国立公園内の南九十九島にある無人島で、九十九島でも有数の美しいビーチを持つ島です。戦国時代に平戸松浦氏と大村氏の戦いがあり、戦後にアメリカ軍の専用ビーチとして使われたこともあり、島から見る夕陽は格別らしいです。「らしい」と書いたのは、これまで一度も上陸したことがないからです。

「金重島」で検索すると、カヤックで上陸したり、釣りをしたり、キャンプしたりしている方の Web ページがいくつかヒットします。

九十九島の玄関口でもある「九十九島ビジターセンター」の方のお話によると「土地所有者の方から意向があるため、金重島への上陸は控えてください」とのこと。

国立公園内の無人島の多くは国有地ではなく、私有地になります。つまり、一般の方が土地所有者ということです。金重島も例に漏れず、陸地の部分は土地の所有者の方がおられます。

ここで気になったのが、潮間帯(ちょうかんたい)の考え方です。ビジターセンターでも配布している環境省作成の「九十九島マナーガイド」には次のような記述があります。

上のとおり、潮間帯は法的に土地として認められていない浜や磯を指し、個人が所有できるものではありません。国や自治体の港湾部が管理する領域となります。

土地所有者の権利の範囲外に当たるはずの潮間帯に対し「市民による国立公園の利用」を制限できる法的な根拠は何だろうと気になりました。

実際の理由としては、厳密にどの部分が潮間帯に当たるかの判断は難しいでしょうし、マナーガイドに記載されている内容を知らなかったり、マナーを無視して所有者の土地に踏み入れるケースがあったり、ごみの投棄や自然破壊などの問題が出る場合が多いものと予想できます。

ただ、法律と公益性の観点から考えると今ひとつ説明が腑に落ちません。これが認められれば「騒音や排ガスが迷惑だから」と言って一市民の自宅前の国道を封鎖できてしまいます。

そこで、九十九島ビジターセンターを管轄する環境省へメールで質問をしてみました。

金重島への潮間帯上陸について

九十九島ビジターセンターで配布しているA3版のガイドマップ

回答は次のとおりでした。

 土地の立ち入りについては、一般に所有権に基づき、所有者の意向により立ち入りの可否が決まります。

 金重島は個人が所有される島・土地で、所有者の方が「自身の所有地への立ち入りを認めない」との意思表示があり、利用マナーを普及する役割を担うビジターセンターの窓口等の対応では、先のとおりお伝えしているところです。

 一般に、陸に接続する潮間帯は土地の所有権が及ばない空間と認識しており、接続する土地の所有者の意向が及ぶものではないと理解していますが、利用者が個人の所有地に意図せず立ち入ってしまうなどの事態が生じることが想定されることから、所有者、利用者相互が不快な思いをすることが生じないよう、お願いベースではございますが、利用を控えていただくようビジターセンターでお伝えしております。

やはり「禁止」ではなく「お願いベース」「控えて」ということで、僕が違和感を感じていた点である「法的根拠は無い」という事みたいです。

ただ、現実問題として

  • 公園利用者がマナー違反をした結果、土地所有者と公園利用者が被るリスク
  • 公園利用者が当該潮間帯を利用できなくなる公益性の損失

の2つを天秤にかけてみた時に、後者よりも前者を優先した判断という事で理解はできました。ゆっくり無人島を楽しもうとしている時に、こういうトラブルに巻き込まれたらお互いイヤですしね…。

もっと周知しないの?

先述のマナーガイドなどでは、丁寧に潮間帯の利用方法についての記述がありました。しかし、特別扱いされている金重島についての注意喚起がありません。

ローカルマナーとして「上陸を控えて」はビジターセンターでアナウンスをしているだけでなく、九十九島を利用する民間業者(カヤックや瀬渡し業者)にも知れ渡っているそうです。

金重島について、特に上陸を控えるような記述は掲載されていない。

個人で出艇している一般の利用者に限っては、ビジターセンターに足を運んで窓口の方とお話をしない限り、この情報は手に入りません。そこで「Web サイトや立て看板、マナーガイドなどでもっと大々的に周知しておくべきでは?」という質問をしました。

所有者は同一の方ですが、以前は島への立ち入りを許容されていたという事実があり、今後その意向が変わられる可能性もあり得ることから、パンフレット等による対応は見合わせているところです。

なるほど。

つまり、「上陸を控えて」は今後変わる可能性も十分にありそうです。環境省としては柔軟な対応をしているようですね。

結論

金重島はカヤックで西方の高島方面に向かう時の足がかりにもなる島ですので、安全な航海のためにも堂々と利用できるに越したことはありません。ただ、法的にOKだからと言って積極的にローカルマナーを無視した利用は社会的にも倫理的にもアレな人になってしまいます。人命に関わるような緊急時以外では、金重島には上陸しない方が賢明だと思います。

利用者のマナーが向上し、本来利用できるはずの潮間帯だけでも気持ち良く利用できるよう、関係者が納得できる日が来ることを祈っています。

カヤックの出艇に関しては、細かい案内が記載されたA4紙が配布されている。

テント泊について

九十九島でキャンプをしている方は結構いるみたいです。下記のページでもテントを持ち込んだり、一泊した模様が紹介されています。

そこで気になったのが、潮間帯でのテント泊です。

以前、同じ西海国立公園にある烏帽子岳でテント泊をした後、気になって問い合わせをしたところ「国立公園は自然公園法に基き、許可なくテントを設営したらダメ」という回答をいただきました。

潮間帯は法律的には土地として扱われないのですが、国立公園内に当たるのかどうかがわからず質問したところ、次の回答をいただきました。

国立公園に指定されている九十九島の島々は、東京湾中等潮位を境に、陸域は特別地域、海域は普通地域として指定されています。
自然公園法の規定では、特別地域でのテント設営は許可が必要な行為であり、特に、九十九島の島々の多くは第1種特別地域に指定されているため、公益性が認められる場合など限定的な、許可基準を満たすことが必要となります。一般に私的なレジャーなどによる設営は許可を得ることは困難とお考えください。
一方、普通地域でのテント設営は申請等の手続きは必要としません。

「東京湾中等潮位」というものがあるそうです。

隅田川河口の霊岸島量水標で観測した結果から求めた平均潮位をT.P.±0と定め、それを絶対的に固定するため確固不動の固定点に標したものが水準原点であってわが国の水準測点の原点としている。

https://www.ktr.mlit.go.jp/arajo/arajo00206.html

なるほど。それを基準にして、陸側を「特別地域」、海側を「普通地域」として指定する。つまり陸も海も国立公園内ではある、ということみたい。

テントなどの構造物を無許可で設営できないのは、この「特別地域」らしいです。逆に「普通地域」ではそれらの規制がないのか。

ただ、この「東京湾中等潮位」というのがどこに存在するのかが分かりません。メールには、次のような一文が添えてありました。

東京湾中等潮位は潮間帯に存在しますが、潮位は刻々と変化することに加え、波による変化もあり、現地で明確に判別することは非常に難しいという性格のものです。
厳密ではありませんが、潮間帯の中間あたりにあることを理解いただき、一つの目安として捉えていただければ大きな誤りは生じないのではないかと考えます。

目安を教えていただきました! これはありがたい。

言葉だけだとちょっとややこしいので、大ざっぱな図をまとめてみました。

潮間帯の中間より海側が普通地域という事なので、寝ている間に潮が満ちてくる可能性大です。現実的にテン泊できるロケーションを見つけるのはかなり厳しそうですね。

そもそも法律が国立公園の無人島でキャンプしたい需要を考慮した設計になっていないと考えられ、「現行法ベースで強いて言えば」の回答となるようです。

ちなみに、テント・タープ・ツェルトのように支柱やペグダウンが必要なものは構造物として判断されますが、レジャーシートと寝袋だけであれば特別地域でも大丈夫のようです。夏場にフナムシに起こされるのを我慢できればアリ…?

結論

法的には潮間帯の中にテントを設営できる領域は存在するものの、現実的には難しそうです。

2023-02-13 追記

国立公園内でのテント泊は、登山をする方でも重要な課題なようで次のような記事を見つけました。

黙認テント&闇テントについて。

「登山客と陸の国立公園」という組み合わせは、カヤックで無人島キャンプをする人口よりはるかに多いことが予想できます。

(ちなみに登山人口は700万人、スキー・スノーボード人口は430万人、ヨット・モーターボート人口は60万人とのことです。カヌー・カヤック人口のデータを見つけることはできませんでしたが、桁違いに少ない気がします。)

レジャーと言えど、ビバークを前提に考える文化も興味深いです。「少しでも危ないと全部ダメ!」ではないところが人間味があって良いですね。

陸よりもさらに過酷な海の上も例外ではなく、人命が関わるような事態であれば、前述のマナーや法律を無視してでも助かる術を検討しなければなりません。(違法性の阻却事由があると言うらしい…)

佐世保のシステムエンジニアです。詳しいプロフィールやこのブログについてはこちらをご覧ください。

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