先日、テレビを眺めていたら地図に関する衝撃的なニュースが流れてきました。国連での採択とその報道になんだか違和感を覚えたので、整理してみたいと思います。
1. 報道
2026年9月8日放送のテレビ朝日の情報番組で、「イコールアース図法」が国連で採択されたという話題が報じられていました。その報道がなかなかに強烈だったんです。
「大陸をより自然な形で表現できる」
「(メルカトル図法は)数百年前の大航海時代由来の海図でしょ?」
といった「これまでの地図(メルカトル図法)は間違っていた」「これが真の現実だ」「これこそが正義である」といった、極めて断定的な論調。メルカトル図法の正角性についての言及すらなし。
一視聴者として「なんだかすごいことになってるぞ?」と驚くと同時に、科学的な道具に対して「正義」や「間違い」といった二元論を持ち出すメディアの姿勢に、素直な違和感が湧いてきました。
2. イコールアース図法
今回推奨されることになったイコールアース図法。なぜこれほどまでに「正しい」と強調されているのか、その背景を整理してみます。
- 面積の正確さ: 地球上の各地域の面積比を正しく表現できる「正積図法」であること。
- 「真の現実」の反映: 従来の地図で小さく描かれがちだったアフリカなどの低緯度地域を、本来のサイズで見せる。
- 政治的な思惑: 「アフリカ主導の思惑」が背景にあると報じられています。
面積を正しく見せることで世界を公平に捉え直そう、という倫理的な意図は分かります。ただ、本来客観的であるはずの科学的な投影法の世界に、政治的な「正義」という物語が強く介入している様子を見ると、個人的に「ウワァ……」という、なんとも言えない居心地の悪さを感じてしまいます。技術的な事実が、政治的なナラティブに上書きされていく時のあの感覚です。
3. 方位の正確さ
メディアが「面積がデタラメだ」と一方的に叩くメルカトル図法ですが、実はイコールアース図法には逆立ちしても真似できない、極めて重要な長所があります。
それは、「等角航路(恒角航路)が直線で表される」という点です。
簡単に言えば、地図上で引いた直線が「常に一定のコンパス方位(等角)」を示すということ。これは航海や陸上での移動において命に関わるほど重要な特性です。地図上の角度が現実と一致していなければ目的地に辿り着くことすらできません。イコールアースは地点によって北の方向が違う表現となってしまいます。
ここで、両者の特性をトレードオフの視点で比較表にしてみました。
| 図法名 | 優先要素 | 主な用途 | メディアの評価 | トレードオフ(切り捨てたもの) |
| メルカトル図法 | 角度・方位 | 航海、航空、Googleマップ | 「デタラメ」「悪」 | 高緯度地域の面積の正確さ |
| イコールアース図法 | 面積 | 統計資料、分布図 | 「真の現実」「正義」 | 角度・方位の正確さ(航海には不向き) |
「方位の正確さ」という実用上の大前提を無視して、メルカトル図法を一方的に悪者扱いするのは、あまりに科学的視点を欠いた報道ではないでしょうか…。
なお、数十kmといった局所的な範囲における「距離」についても、メルカトル図法は方位によって距離がほとんど変化しません。一方イコールアース図法は、日常的に人間が活動しうる数十km範囲の地図であっても、方位による距離の変化が顕著です。
これは、私たちが普段「地図にもとめること(方位や距離)」の大部分を犠牲にしていると言わざるを得ません。今日の風向きや、日の出日の入りの方位や、台風の進路などなど、私たちの日常に深く関わっているのは「方位」や「距離」であり、「面積」ではないと思うんですけどね…。
4. 地図は「道具」であり「思想」ではない
そもそも地図投影法というのは、球体である地球を無理やり平面に落とし込むための「シミュレーション」の一種です。シミュレーションの世界において「すべての変数を最大化する」ことは不可能です。
これは一種の最適化問題です。面積、角度、距離、方位。これらすべてを同時に正しく表現することは、数学的に不可能なのです。
- 統計データを見て大きさにこだわって鳥瞰するなら、イコールアース図法が適している。
- 実際に目的地へ移動したり、進むべき方向を計算したりするなら、メルカトル図法が適している。
バイクで速く移動したいときにカヤックを選ばないように、あるいは浅瀬を探索したいときに大型バイクを持ち出さないように、目的によって最適な道具は変わります。地図は目的に応じた「道具」であって、どれか一つが唯一無二の「正義」ではないのです。必要な時に必要な投影方法を用いるべき、これに尽きます。
ですので、アフリカの主張「西洋諸国が大きく描かれ、アフリカが小さいのは、彼らがアフリカを虐げてきたことに由来する」をそのまま報道しているのがヤバいなぁと感じます。「イコールアース」(地球と同じ)というネーミングにすら悪意を感じます。球体を平面投影している以上、イコールにはなりません。
また、これらの投影方法を国連で議論すること自体がナンセンスに感じました。「力を持つ国や地域がクレームをつければ議論・採択される」という悪例を増やしたように見えます。
日本をはじめとする賛成した諸外国は、実際のところ「今後発展が期待されるアフリカ諸国に恩を売ることができる。強制力はないし、科学的論点でもないから、我々は用途によって使い分けをする。結果、実害はなくリスクゼロの外交である」というのが本音なんだろうと思います。アフリカに対する植民地化、奴隷搾取の歴史を持つヨーロッパ諸国は、そこに「うしろめたさ」が加わり、アフリカを支持することによる免罪符のひとつを手に入れようとしている思惑が見えます。
ここまでは百歩譲るとして、国内では表面的な報道が溢れていて、一部の視聴者が「メルカトルは悪」みたいなざっくりとした印象として記憶に紐付けをしていそうなところです。これはたまったもんじゃない。
5. フラットな視点で世界を見続けたい
「真の現実」という言葉は非常に魅力的ですが、その裏側にある技術的なトレードオフや多種多様な用途を切り捨ててしまう危うさも秘めています。
一つの価値観や「正義」に縛られて極端な論調に走るのではなく、それぞれの道具が持つ特性を論理的に理解すること。それが、私が大切にしたいフラットな視点です。
さて、次の休みにはどの地図を持って出かけましょうか。面積は歪んでいても、やっぱりコンパスの針を信じて進める地図が、私にとっては一番の相棒かもしれません。
