先月のある朝、例のごとく遅刻ギリギリで家を飛び出た。1階に住む90になる爺ちゃんが、慌しく階段を降りて来た自分に気付いて、窓を開けていつもの「買い物のお願い」をしてきたが、その時ばかりは聞いてる余裕もなかった。
「少しは時計を見て、状況を分かってくれっ」
と、ちょっとムッとなったが、冷静に考えるとそんな時間まで寝ていた自分が悪い。
タクシーに飛び乗って、なんとか始業までに間に合った。
席に着いてメールの確認をしていた午前9時30分。先ほどは慌てていたあまり気づかなかったが、腰が異様に痛い。座ってられない程、ズキズキと背骨を痛みが突く。ちょうど上半身と下半身が分かれているように、背骨1本に全体重の半分がかかっており、ちょっとでも重心をずらすとその方向に激痛が走った。
これは業務にならないと思い、上司に言って病院に行く事にした。職場と実家は近く、どの病院にかかればいいかも疎かったので、母に連絡して実家の車で行く事に。
車を待っている間が地獄だった。
会社の下の道で樹木に手を着いて脂汗を流していると、遅刻してやってきた先輩プログラマが、ニヤニヤしながら
「なんばしよっと?」
「こ、腰ががが・・・痛いッス」
その後、近所の整形外科に担ぎ込まれ、車椅子や担架で対応してもらった。お爺ちゃんお婆ちゃんだらけの待合室でアイタタ言ってるのが微妙に恥かしかった。
診察や治療が終わったのはすでに昼を過ぎていた。ほとんどが待ち時間や患部を温めて寝ころがっていた時間だが、先生曰く、
「先日、救急車で運ばれていた患者よりよっぽど重症だよ。キミみたいに自力で歩けないくらい酷い人こそ救急車を呼ぶべきだ。」
そのまま入院する手続きをされていたので、「仕事があるんで」と無理を言って自宅療養するようにした。
週末を含めて3日ほど、実家にて腰の療養をした。ケガ名はぎっくり腰、つまり椎間板ヘルニア。中学の頃、担任の先生が授業中にぎっくり腰になって倒れ、救急車で運ばれていった思い出がある。その惨めな様に、男子生徒はみんなで大爆笑、女子も半分を大笑いしてたと思うが、実際になってみるとこれは確かにキツい。自分の場合、慢性的なヘルニアのようだが、神経を圧迫損傷しているようで、病院に担ぎ込まれた時には、右足が完全に麻痺して思うように動かなかった。
風邪を引く事はあっても、スポーツで大怪我をした事もないし、ましてや腰にダメージを食らうのなんて初めてなもんだから、勝手が分からない。絶対安静と言えど、熱があるわけでもないし、眠くもならないので結局起きて仕事をしたりしていた。
それが祟った。自宅に帰り、さらに2~3日ほど療養して復帰したが、待っていたのは、東京出張だった。一泊二日の日程で、丸の内と赤坂をまわり、3つの会議をこなすスケジュールだ。
実を言うと、入院を拒否して自宅療養にしたのは、大事にしてしまって今回の重要な会議に影響してしまわないか心配しての事だった。
一日目をなんとか無事に終え、辿り着いたのが御成門駅付近、東京タワーの隣、東京プリンスホテルだ。本来ならば、出張ごときでこんな良いホテルには泊まれない。今回は航空券付のホテルパックを利用し、良いホテルに泊まれたのだ。チェックイン時に喫煙室に変更してもらったら、お値段据置きでツインルームを用意してもらえた(シングルの喫煙が満室だったようだ)。
チェックイン後、上司に連れられ呑みに出て(これも仕事だ)、部屋に戻った頃には東京タワーのライトアップは消えていた。窓からはみ出て見えるタワーの根本を写メに収めようと思っていたのに残念だ。
今回のヘルニアさえなければ、仕事を含め、いい旅が出来たんだろうなと思いつつ、往路で味わった地獄のような山手線/飛行機/高速バスの座席に明日も晒される事になる恐怖と戦いながら眠った。
翌日、長時間の座席とネクタイを翻しながら駅内を縦横無尽に行軍した移動の影響で、丸一日動けなかった。土曜日だから幸いだった。
その後も、上司の計らいで九州大学の先生と夕食をご一緒する機会があったり、広島は呉市まで日帰りの出張をする機会などがあった。
症状が出てから、ほぼ1ヵ月。「口は悪いが腕は確か」という漫画やドラマの登場人物のような整形外科の先生のお陰で、腰の痛みはなくなった。しかし、まだ長時間同じ姿勢で座っていたり、10分以上歩き続けると、右足が肉離れになったような激痛が走る。寝ててもたまにつる。
ヘルニア自体は直っていると思うが、損傷した神経がまだ不完全のようだ。ぎっくり腰は得てして薬と注射にて治療するのが定石というところだそうだ。自然治癒に任せれない程、骨がずれている場合は手術の一手らしいが、病院での激痛ストレッチで腰の痛みが引いているところを見ると、自然治癒で問題ない。
ただ、自然治癒中に不用意に腰に負担をかける事が多く、まだ完治しているとは言えない。その事を上司と相談した上で、先週金曜日から本格的な治療に入る事になった。上司の話を聞けば、(上司も30代の頃、椎間板ヘルニアを経験したようで)初期の治療を疎かにすると、年単位で腰痛に悩まされる、所謂「腰痛持ち」になって仕舞うそうだ。
先月、今月とボコボコ休んでいるので申し訳ない気もするが、自宅での業務も打診してくれた。プログラマの仕事は、電話とメールがあれば、基本どこでも出来るしね。
明日、近所の整形外科から上司の勧めている労災病院に移る。
あー早く直れ腰。
※ 2020/07/02 度重なるブログ移転・ブログシステムのアップデートにより崩れた記事を校正。