助けていただいたお店にこれ以上長居しても迷惑かと思い、エンジンスタートとタイヤ、ブレーキの簡単な確認をして発進しました。
発進して数メートルで気付いたのは、乗り心地・操作性が全く違う状態になっていたこと。エンジン音は問題なさそうだけど、いたるところから変なカチャカチャ音は聞こえるし、何よりフロントフォークが曲がったことによる旋回の感覚が全然違う。ホイールベースも短くなってフォークが後方に入り込む形になるので足つきも悪く、ふらふらする…。
でも、自動車と正面衝突したにも関わらず駆動系が生きていて、真っ直ぐ走る・停まる・曲がる、が出来ているだけでも奇跡です。傷だらけのボロボロにされても健気に走ろうとする VRX の姿に泣けてきました。
ただ、いつ突然死するか分からない予断を許さぬ状況には変わりありません。事故現場からフェリー乗り場までは、2kmほどの距離ですが、徐行に徐行を重ねて10分以上かけて到着しました。
西之表港
午前10時30分、西之表港に到着し、改めて車体を見てみました。
フロントフォークが両サイドとも見事に曲がってる…。運転性能に直結する部分が見事に変形しています。一体どうするんだこれ…。
幸いフォークのオイル漏れはなく、ホイールやブレーキも変形してないようです。車体と僕と荷物の合計300kgオーバーの荷重が時速40kmからいきなり0kmになった衝撃を、フォーク部分が吸収してくれたようです。身代わりになってくれてありがとう。泣きそう。
ラジエーターもフロントフェンダーの形に合わせて変形しちゃっているので、瞬間的にそこまで変形して戻ったようです。フェンダーが干渉したまま折れてたら自走できなかったはず。本当にありがとう。
いくら頑丈なホンダ車とはいえ、設計段階ではありえない衝撃を各部に受けているので、走行中にポキッと折れたり外れたりするリスクはつきまとっています。
比べてみたら一目瞭然。やはり車長がヒュッと短くなっているのが分かると思います。雨の打たれつつも堂々としていたあの勇姿ではなくなってしまいました。
とても悲しい…(´;ω;`)
ミラーもご覧の状態です。このままだと整備不良となるので、本土に到着したらまずミラーを調達しなければなりません。ウィンカーも折れ曲がって明後日の方向を向いていましたが、視認性は問題なく、安定して点灯しました。
ハンドルも曲がっています。フロントタイヤを横から叩けば直ると思いますが、がっつり緩んでそうです。怖いし、途方に暮れたい。
午前10時50分、現状確認もほどほどにフェリー乗り場の建物にやってきました。
出航は午後2時なのに既に大勢のお客さんがいました。お盆の帰省ラッシュに台風が直撃したせいか、びっくりする量です。種子島でこんな人込みは初めて見た…(笑)
乗船手続きの窓口はまだ閉まったままです。よく見ると「フェリーわかさの乗船券は11時15分より販売します」との張り紙が。12時半から車輌積み込みということは予約の電話口で聞いていましたが、発券は11時台からやってるんですね。混雑しているので特例処置かもしれません。
さて、人が多過ぎてどこに並べば手続きができるのか分からず、係員っぽい方に質問するもあまり相手にされませんでした。超忙しそうなのでこれは仕方ない。すると、見知らぬ男性から声をかけられました。
「バイクですか?予約済みなら安心してください。ここで待ってれば大丈夫ですよ」
どう見ても係員風じゃない男性。40半ばから50歳くらいかな。
話を伺うと、種子島出身・福岡在住の方で、彼も種子島にバイクで里帰りし、これから自宅がある福岡まで戻るところとのことでした。「バイクが…」と言いながら困っていた僕を見て教えてくれたようです。種子島の人、ほんとに良い人だらけやぁ…!!
福岡から往復という彼のバイクは、なんと 50cc 原付のヤマハ・ビーノ…!!! 福岡でレンタルバイクとして借りて、下道で九州縦断して種子島まで往復している帰路とのことで頭が下がりました。
たしかに島内は 50cc でも十分快適だろうけど、ちょっとした帰省に原付九州縦断とは…(笑)。曰く、コスパ最強なんだとか。
親切な男性のお陰で、無事に車輌乗船券をゲットできました。とりあえず、手続きはすべて済んだので近くのお土産店でお土産を買って時間を潰しました。
正午すぎ
12時。岸壁には昨日乗るはずだったフェリー プリンセスわかさが到着しました。貨物室から次々とコンテナが降ろされています。フォークリフトの操縦を眺めているとかなりの手練ばかりで、不安定な足場なのにギュンギュン進んで荷物を運び出しています。
ひとしきり荷物を運び出すと、今度は間髪入れずに荷物を運び入れていました。乗船手続きを教えていただいた男性と、バイクにまがって二人で眺めていました。コンテナなどの荷物の積み込みが終わったら、次はバイクの積み込みらしいです。スタンバイスタンバイ。
無事に VRX を積み込み、船内のエレベーターを使って客室のデッキまで上がります。車輌積み込みは一般の乗客の乗り込みよりも先に客室に入れるようですが、それでも「良い場所」は争奪戦のようです。
コンセントが手元にあって寝転べる場所から埋まっていきました。僕は行きと全く同じエントランスホールの椅子に座りました。足を投げ出して寝転ぶには狭いですが、コンセントもあるし、なかなかの穴場のよう…。
出航を待っていると一般のお客さんも次々と乗船してきて、客室に入れなかったお客さんがホールのゴザを敷いて座り出しました。スゴい乗船率…!だけど、みなさん動じる様子もなく、慣れた感じ。年末年始はお盆シーズンはきっといつもこんな感じなんでしょうね。
14時
確保できた席で遅めの昼飯を食べ、うとうとしていると出航時刻になりました。
初めてやってきた時と同じ、平らな種子島です。
フェリーが西之表港を出て、どんどんと島は離れていきました。今回の種子島では観光だけじゃなく旅先での台風や交通事故、入院など色々勉強させられました。ケガがまだズキズキと痛いままだけど、無事に本土に帰ることできそうでほっとしました。
また次に来る時は、嫁ちゃんを綺麗なビーチや宇宙センターに連れていってあげたいなぁ。
昨晩は病院であまり寝つけなかったため、移動中に仮眠をとっておこうと思います。本土に着いたら着いたで、やることはまだまだ沢山あります。
17時20分
往路のような時化もなく、しっかり仮眠することができました。ホールにまで人が溢れていたので、眠っている僕の顔の前2、30cmのところ、ひっきりなしに人が通っていましたが、病院のベッドよりも快適です。(精神的な意味で)
外に出ると初日にテント泊をした桜島。鹿児島港はもう目前のようです。下船準備のアナウンスが流れたので、車輌デッキに降りて準備をしましょう。
車輌デッキは空調がないため、暑さと湿気がスゴいことになっていました。
VRX の固定具を外していた船員さんが、VRX のバキバキになったミラーを見て「これ、積載中に壊れましたか…?」と申し訳なさそうに聞いてきました。「いえいえとんでもない! 元からです」と答えました。気を遣わせちゃって申し訳ない…!
大きな音がして接岸後、積み込み時に一番最後だった四輪車から降りていきます。乗船手続きを助けていただいた男性と船内で割れを告げて、フェリーから発進しました。
鹿児島市内
まず向かったのは、鹿児島港のフェリー乗り場に一番近く、営業してそうなバイクショップです。フェリー内で調べておきました。
店主らしき男性に事情を説明し、割れてしまった左ミラーだけ交換できないか聞いたところ、「大きいバイク用のはあったかな〜?」と言いつつ、店内に入り、すぐに出てきました。
「新品のミラーじゃないけど、無いよりマシでしょう」と手際よく、ミラーを交換してくれました。
新しいミラーになりました。これで心配事が一つクリアできました。整備不良状態で下道を長距離走るのは危険なので、その点については安心です。
お代を払おうとすると、「中古ミラーだし、無料でいいよ」と店主さん。種子島だけじゃなく鹿児島の人も良い人ばかり…。申し訳ないので、工賃とミラー代で1,000円だけ渡し、お礼を言って出発しました。
その足で最寄りのガソリンスタンドに行きました。
事故当日の朝に満タンにしてからこれまで116km走行しています。VRX のガソリンタンクは図体に対して控え目の11リットルで、リッター20km前後の燃費です。満タン航続距離は200kmちょっと。燃料計がついていないのでトリップメーターで換算すると、あと100kmも走れない計算です。
ここ鹿児島港から、フェリー内で急遽予約した出水市のホテルでは75kmほどあります。下道だと燃費も落ちるはずですので、余裕をもって満タンにしておきました。
出光塚田SS
鹿児島港から下道で北上すること10km。時間にして20分…つまり平均30km/hで走っていました。フロントフォークの曲がりの影響があり、めちゃくちゃ運転しづらい…。一時も予断を許さぬ状況が続いていました。特に発進と停止時・右左折時の感覚がこれまでの VRX とはまったく違う乗り物になっており、神経を使います。
走っていて気付いたのが、先ほど訪れたガソリンスタンドやバイクショップでタイヤの空気圧を確認してもらわなかったことです。あれだけの衝撃があったのだから、タイヤへのダメージも相当なはず。カブで走行中にパンクした時は焦りつつも転倒は免れましたが、ツーリング装備を満載した VRX がパンクしたら、支えるどころか足が折れてしまいそうです。
そう考えると怖くなり居ても立ってもいられません。目についた出光に飛び入りました。事情を説明して前後タイヤの空気圧を調べてもらうと、規定どおり圧があるとのことでした。良かった…とりあえず漏れてはないみたい。
空気圧チェックは無料とのことで、それだけでは悪いと思いガソリンを給油しようと思っても、満タンから10kmしか走ってない。100円にもならない金額でさらに対応してもらうのも悪いと思い、お礼だけでガソリンスタンドを後にしました。始終笑顔で対応してくれたスタッフの方に感謝です。
川内川
薩摩川内市に入ると、有名な川内川の川沿いを走るルートに入りました。
コンディションが良ければ下道観光も悪くないですね。往路はずっと高速道路だったので、こういう川沿いや山間を走るのは好きです。
ただ今は、それどころじゃないし陽も落ちてしまったので先に進みます。
川内川から出水市に抜ける山道(国道328号線)は、天気が良い日中は良いワインディングロードのようですが、陽が落ちた真っ暗の深い山や谷&事故車&怪我人にとっては、なかなかの恐怖コースです。スマホのナビを見ながら早く抜けろ…と我慢していても長い長い。おまけに周りの車はビュンビュン飛ばすので、邪魔にならないよう回避するのに疲れました。
出水市
出水市の中心に到着した頃には、20時を回っていました。夏場ですが、さすがにもう辺りは真っ暗。
今夜お世話になるのは「ホテルウィング インターナショナル出水」さん。本来であれば復路も高速道路で、宿泊ナシの予定でした。僕と(支払いに応じてくれるどうか不明な)加害者さんの懐事情を鑑み、リーズナブルなホテルで一泊です。
もっとリーズナブルといえば、ゲストハウスなんかも選択肢にあるんですが、心身ともに疲労困憊、バイクも自分も怪我している状態なので、個室&駐車場付きのホテルがありがたい。朝食付き一泊6,100円でした。
部屋に入って、装備を外し、汗と血でぐちゅぐちゅになった(グロい)傷口のガーゼや湿布を剥しまくります。嫁ちゃんとビデオ通話をして、とりあえず出水市まで来れたことを報告。明日の昼過ぎに合流する約束をして、シャワーを浴び、近所のジョイフルで夕食を済ませました。
今日は VRX の自走が85km、フェリー移動を合わせると300kmくらいです。ただただ、めちゃくちゃ疲れたー!
VRX の故障が思ったよりも少なかったので、明日の佐世保までの道のりにも期待ができそうです。ただ、明後日・月曜日からは大学の研究集会で1週間の出張なので、無事に帰還できても休む暇はなさそうなスケジュール。
明日に供えて早めに布団に入りました。